チャングム、ミンジョンホ、クミョン、愛の三角関数の定理

ミンジョンホは、どうしてチャングムに魅かれるようになったのでしょうか?

初めてチャングムをそれと意識して見たのは、書庫の中。
女が入ってきてはいけないはずの書庫の中に、若く美しい女官がいること自体が思い掛けないできごと。
しかも彼女は無心に次々と本を選んでは読んでいく、知的好奇心に燃える無防備な姿。
ミンジョンホは我知らずときめきを覚え、これ幸いと見つめ続けます。
チャングムが心に浮かんだ疑問を思わず口に出したとき、
チョンホも思わずそれに答えてしまい、
あわてて威厳を取り繕って、
ここは、女が入ってきてはいけないところですよ、
などと注意する。
しかし、チャングムが持って来た、書庫の管理人宛ての手紙を読んだミンジョンホ。
これは絶好の機会だ! これを利用しない手はない、と内心小躍りしながら、
表向きはあくまで威厳を取り繕いつつ、
私はどこそこで武官たちの訓練をしています。そこに来れば本を貸して上げます。詩経(書経?)がいいですか?
と、さっそく逢引の約束です。さりげなく自分の観察力もアピールしながら。
チャングムはあくまで無心に知識欲に燃えて、大喜び。
その姿を見て、ああ、わたしの心の中にも春がやってきた、と喜ぶチョンホ。

ミンジョンホは16歳で科挙に首席で合格し、親族や宮廷の人々の期待も篤く、それにたがわず、学問に武芸に精進し、文官としても武官としても優れた業績を挙げ続けています。

実は、周囲の期待というものはそれに応えれば応えるほどますます高くなり、羨望と嫉妬の壁も厚くなる一方です。それにつれてミンジョンホの心の奥には、いつか人々の勝手な期待や羨望や嫉妬のこもった視線を引っ掻き回し、掻き乱して、眼を剥かれ、呆れられてでも、しっちゃかめっちゃかに己の思うがままを貫きたい、という願望・欲求が、心の奥底深く、自分でもまったく意識しないうちに、たまっていたに違いない。
それが、常識をはずれて書庫の中で本を読むチャングムを見て、いきなり解禁。

後は、チャングムに逢えば逢うほど、チャングムの噂を聞けば聞くほど、もう、自分にかけられた期待・羨望・嫉妬の枠や壁や塀を破壊する勢いがどんどん増して行き、暴走機関車のごとく、走る、走る、突っ走る。

チャングムが済州島に流されたときには、まるで「天空の城ラピュタ」でシータがムスカたちに奪われた後の項垂れたバズーみたいに落ち込んで、カンドックの家に行き、そこでまた、まるでバズーが海賊のおばさんにどやされたときみたいにカンドックのおかみさんにどやされると、バズーが海賊達と一緒にシータを追いかけて行ったときのように、職を辞して済州島へ!!

奴婢に落とされたチャングム。奴婢というのは勝手に移動することを禁じられているのに、そうでなくても流刑にされているのに、チャングムは何度も脱走を企てる。型にはまらない、枠からはみでてる、いや枠をこわしかねない、チャングムの面目躍如。

それを見て、ああ、やってる、やってる、チャングムさんらしい、やっぱり俺の目は狂っていなかった! と思ったミンジョンホは、追手に追われるチャングムを助けて、いい男であることを見せつけたうえで、やさしく、このまま脱走を繰り返していても、ほんとうに自由になることはできません、冤罪を晴らして正々堂々と宮中に戻ることをめざしましょう、わたしも手伝います、と説得。
こうやって、済州島への流刑という禍を転じて福となし、宮中から離れた場所で、チャングムとゆっくりと愛を育む時間を確保します。

一方、ミンジョンホが済州島にチャングムを追って行ったことを知り、嫉妬に苦しむクミョン。

そもそもクミョンは、ミンジョンホとチャングムとがそれと知らずに出会うきっかけを作ってしまったのが自分だとは気づいていません。
そのきっかけとは金鶏を逃がしてしまったことですが、そもそもそんなポカをやりそうにもないクミョンがそんなドジを踏んだこと自体、一つの試金石だったのです。

クミョンは、最高尚宮候補の優秀な女官見習として、チェ一族の期待を一身に背負っている。スラッカンの尚宮たちからも期待されている。その期待に応えねばならない、金鶏を逃がしてしまいましたなどとは口が裂けても言えない。

クミョンは、人に助けを求めるのがへたで、余計に孤独になってしまうのです。もともと優秀だから、そんなに人に助けてもらわなくてもいいぶん、いざ、どうしても助けを必要とする状態になったとき、自尊心と自負心が邪魔をしてしまいます。

一方のチャングムは、人が困っているのを知ると助けずにはおれない性格で、幼いときから、宮中に上がる前に拾われたカンドックの家では、おかみさんの腰の痛みを治してあげたり、水を汲んできたり、宮中に上がってからは、ヨンセンの亀を助けたり、ヨンセンのおかあさんが病気だと知ると、実家への帰宅というご褒美を譲ったり、はたまた、クミョンが金鶏を逃がしたことに気づくと、夜になってから一緒に宮中から抜け出して金鶏を買いに行ったりと、頼まれなくても親切のしどおしです。

そして自分が困ったときにはすぐに、菜園のウンベクさんや内医院のシンイクビル医務官などのような、知恵や知識のある人に相談したり、また済州島では貧しい人に薬を買ってあげるためにミンジョンホにお金を借りに行ったりと、実に的確に、かつ遠慮なく、適材適所で人の助けを借りに行きます。

チャングムと、クミョンの違いは、ここにあります。

クミョンは、健気で気高いけれど、実はたいへんに依存心が強いのです。人々からの期待・評価で自分を支えているのです。だから、人に助けを求めて期待や評価を失ったり下げたりするぐらいなら、全部自分で抱え込んでしまおうとするのです。

一方、チャングムは、そもそもの始めから人々の期待も評価もないし、自分でも気にしないというより、世の中にそんなものがあるということを忘れているふしさえある。孤立し、誤解され、迫害されたときに、初めて気づく程度です。
常に、自分がしようと思うことしか、眼中にない。困っている人がいると、その人を助けてあげようということしか、考えられない。だから次々とトラブルを起こしたり、巻き込まれたりしてしまう。人に迷惑かけまくり、助けられまくり、のように見えますが、チャングムは、本質的な意味で、全然、依存的でない人なのです。

チャングムのこの開放的な性格は、チャングムがほんとうに良い友や良い師をつくる、天賦の才能となっています。

ハン尚宮は、チャングムに、
皆、お前の良いところを誤解している、お前のほんとうに良いところは、能力が優れていることではなく、常に前向きなところです、
と言っていましたが、その前向きな性格は、チャングムの良さに感応できる人からも、前向きな姿勢や、眠っていた能力を引き出す力を持っている。

チャングムの親友ヨンセンは、甘えん坊で、何かというと、ねえどうするのチャングム、といいますが、チャングムは、ヨンセンがこういう依存的な態度をとったときには、びしっと注意します。
でもヨンセンがほんとうに困っているときや悲しんでいるときには、一番の理解者で援助者で協力者です。
そしてヨンセンも、チャングムがいじめられたり迫害されたときには身を挺して護ろうとします。たとえ敵わぬまでも敵と刺し違えて死ぬほどの覚悟で。そんなヨンセンの強さは、チャングムを友としたからこそ発揮できたのでしょう。

菜園でやる気を失っていたウンベクさんは、チャングムのうるささ・熱心さにほだされて、だんだんと、やる気を取り戻していきます。そしてついには、チャングムの良さを理解し、熱心な支持者となり、逆に、医女になりたいというチャングムが医術を復讐の手段にしようとしていることを知ると、厳しく、何度も諌めます。もしも医術を復讐の道具にしていたら、あのヨリのような人生を歩んでしまうところでした。
チャングムは、ハン尚宮といい、ウンベクさんといい、ほんとうに良い理解者・指導者を得ることができました。

クミョンは、チェ尚宮から、呪いのお札をテソンカンに隠してきなさいといわれたとき、最初は激しく拒み、また、おなかが痛くなるほど苦しみます。とても人には言えない悩み、苦しみです。
でも、クミョン自身が良きライバルと認めるチャングムが声をかけてくれたとき、何か、相談することもできたはずです。
たとえば、こんなふうにいうとか。
<あなたに事情を説明することも、何で悩んでいるのかを言うこともできないし、決して誰にも言わないでほしいのだけれど、わたしは今、分かれ道に立たされているの。
一つは、一族の人々が皆集まって明るく燃える松明を持っていて、一緒に歩んでいこうとしている道。その道は、これまで一族の人々が皆歩んできた道で、広くて、道筋はよく知られていて、先のほうも明るくてよく見えるからおまえも一緒に行こう、と言われるの。でも、わたしには、その道の先がとても暗くて不気味に見えて、恐ろしくて、とても踏み出せない。嫌悪感を催して、逃げ出したいくらいなの。
もう一方の道は、誰もいなくて、とても暗くて、その道を歩んでいくときには、わたしがたった一人で、小さな明かりを手に持って、その明かりを消さないようにとても注意深くしながら、一歩、一歩、歩んでいかなければならないの。
どっちの道も、とても不安で、怖くて、寂しくて、でもどちらかに歩みださなければならなくて、苦しいの>
チャングムは、金鶏取り逃がし事件のときでも分かったように、人が本当に困っているときにはとても親身になってくれる娘。
きっと、クミョンの苦しみをわがことのように受け止め、なんとかクミョンが一歩を踏み出せるように、支えてくれたはず。

チャングムは自分自身が依存心が極端にないから、人から依存されると、自然にはねつけてしまう。でも、人の苦しみや悲しみを放っておくことができない。だから、どんなに逆境に立たされても、完全に孤立することはないのです。

一方のクミョンは、美しく聡明であるがゆえに高い期待をかけられ、期待に応えようと努力することでますます能力が高くなり、更に過剰な期待をかけられ、それに応える、その相乗作用で、いつかがんじがらめのとりこにされていく。チェ一族を自分の居場所と定め、最高尚宮になっても、いつも、孤独で、心の奥にたまった依存心は、決して満たされることも、癒されることもない。

そしてミンジョンホは、自分自身が、両班の秀才の若様として期待を背負い、それに応えて、品行方正で優秀な文官・武官として生きてきたけれども、ほんとうはその「殻」を破りたいという願望を持っている。だから、殻を破ってくれるチャングムに魅かれ、追い掛け回し、どこまでも着いて行くのです。そして望み通りにどんどん「殻」を破り、そのためにどんなに散々な目に遭っても、全然懲りないどころか、むしろますます、チャングムに執着してしまうのです。

結局、クミョンがどんなにミンジョンホに慕情を抱き、真心を捧げようとしても、彼には振り向いてもらえない。必死になって人々の期待に応え続けるクミョンの姿は、実はチョンホが最も避けたい生き方を体現したもの。もし一緒になったら、とても息苦しい、狭い檻の中に閉じ込められたような人生を歩み、自分のほんとうの望みは何なのかもいつか忘れてしまって、そのまま息絶えてしまうかもしれない。

そう、ミンジョンホがクミョンの愛に応えないのは、富と権力に執着するチェ一族が憎いからでも、正義を貫きたいからでもありません。クミョンの生き方が、チョンホがそこから逃げ出したくて仕方がない、壊してしまいたくて仕方がない生き方だからです。

クミョンにとっては、ミンジョンホを慕えば慕うほど、チャングムに嫉妬すればするほど、ますます、チョンホが最も望まない生き方に嵌り込み、抜け出せなくなり、彼から遠ざかる一方です。

そしてミンジョンホには、クミョンというひとりの女性の心がどんどん見えなくなっていく。

く……クミョン、可哀想……!!

でも、ちょっと待って。ドラマのタイトルが「宮廷女官チャングムの誓い」となっているように、チャングムは、「スラッカンのチェゴサングンになっておくれ」というおかあさんの遺言に応えようとし、遺言に縛られていなかったでしょうか?

いやいや、これは、チャングムのおかあさんの深い愛情と智恵の籠った言葉なのです。
おかあさんは、おてんばで好奇心旺盛なチャングムの性格を知り抜いていて、将来を心配し、自分が亡くなった後、チャングムが道を踏み外さないように、何か指針を残してやりたいと思ったのです。
それには、「スラッカンのチェゴサングンになる」という目標がちょうどいいだろう。
母の言葉を守ろうと努力することで、チャングムの好奇心にも無鉄砲さにも目標が生まれ、しかももしも宮中に上がれば、親友のハンペギョンに会えるかもしれない、彼女なら、チャングムをきっと正しい方向に導いてくれるだろう……
たとえ女官になるのはいやだと思ったとしても、それならそれで、女官以外の道を選ぶ、ということがまた一つの指針になるだろう。
とにかく、父親も母親もいなくなるチャングムのために、一筋の道標を遺しておいてやらなくては。
という深謀遠慮が、あの「スラッカンのチェゴサングンになっておくれ」という遺言になったのでしょう。
だからこれは、クミョンが、チェ一族や宮中の人々の期待に応えて優秀な女官に、そして尚宮になろうとするのとは、まったく別のことなのです。
チャングムは、人々からの高い評価ではなく、母の強い愛に支えられており、チャングムもまた、周囲の人々に惜しみなく愛を注ぐ女性になったのでした。
チャングムは、無鉄砲で好奇心旺盛なだけでなく、母性愛にも溢れている。それも、人を保護する代わりに人から依存されることを期待するようなタイプの母性愛ではなく、人が自分らしい生き方をするのを助ける母性愛です。チャングムは、誰かが冒険しようとしているときに、危ないからやめろというのではなく、わたしも一緒に行くわ、というタイプなのです。

だからますますミンジョンホは、チャングムから離れられなくなる。もはや「見守る」なんて生易しいものではない。追い掛け回して完全密着しています。
チョンホにすれば、
だって、チャングムさんはすばらしい善良な人なのに、まわりに陥れようとする悪い敵がいっぱいいて、いつも罠にはまるんだから、わたしが守ってあげなければならない、
というところでしょうが、なんのなんの、ただ一緒にいたいだけなのです。
そこで、

ねこにまたたび、うまににんじん、チョンホにチャングム、

と言ってやったら、
それのどこがわるい!!
と居直るに違いありません。

一方、誰かの前で、

アキレスと亀、クミョンとチョンホ、

などと言ったりしたら……
毒を盛られて命がなくなるかもしれません……


*参照
宮廷女官 チャングムの誓い ファンサイト 「チャングマ」
http://www.keymi.or.tv/cinema-street/kaigaidrama/changm/



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この記事へのコメント

Romeo
2005年08月01日 21:40
てるてるさん、こちらでは初めましてm(__)m
いやぁ~、こんなにも深く三人の性格、心情、行動の型、それが齎す三人の関係を掘り下げて分析、解説されて居られるなんて、云われてみれば本当に成る程、その通りと、感心させられました!!素晴らしい解析力に敬意を表します。 三人には結局、これ以外の有り様は有り得なかった、選びようがなかったのだと言う宿命的なものを良く感じさせて戴きました。そして更に云うならばそのようなSituationから踏み出す事の難しさ、自己変革が状況打開として可能なのか等々を考えさせてくれるきっかけにもなりました。有難う御座いましたm(__)m
2005年08月02日 11:11
Romeoさん、コメントありがとうございます!

いやもう長々としょうもない思い込みを書いて、とチャングムファンの方々から叱られないかとひやひやしています。

きーみさん運営のチャングマサイトが、皆さん和気藹々としておもしろいので私も触発されてしまいました。

またチャングマサイトに遊びに行きます。これからもよろしくお願いします。
紗菜
2005年12月27日 19:47
私もチャングムのように前向きに生きたいなと思いました!!今放送されているチャングムで見るのは二度目ですが、今回はてるてるさんの考えてる三人の心情を参考にして楽しみたいと思います(^_^)v
terutell
2006年01月01日 00:58
紗菜さん、はじめまして。
あけましておめでとうございます。
ことしからは毎週金曜日の夜が地上波での放送ですね。
一緒に楽しみましょう!

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