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help リーダーに追加 RSS 「大長今」と「宮廷女官チャングムの誓い」

<<   作成日時 : 2007/05/08 12:38   >>

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「大長今」と「宮廷女官チャングムの誓い」。どちらも同じドラマの題名だが、意味合いはちょっと違っている。

韓国で製作されたドラマの原題は「大長今」で、《大長今》は、医女チャングム(長今)が王の主治医になった時に与えられた称号なので、このドラマは医女チャングムの物語であることを表わしている。

日本のNHKで放送されるときの題名は「宮廷女官チャングムの誓い」。こちらはもちろん宮廷女官チャングムの物語であることを表わしているが、更に、「誓い」を付け加えることで、医女になったのも女官時代の誓いを果たすためだった、と強調するかのようである。

「大長今」を撮影したイビョンフン監督は、「大長今」の前に、「ホジュン」というドラマも作っている。ホジュン(許浚)は、朝鮮王朝第14代宣祖の主治医を勤め、医学書の名著『東医宝鑑』を著わした実在の人物である。先行作品に、ドラマ「執念」、小説『許浚』などがあり、イビョンフン監督のドラマ以前に、既に人気も知名度もあった。イビョンフン監督の「ホジュン」は、それらにも増して人気を博して、全体として十話もふやされた、という。

その「ホジュン」の製作過程で、イビョンフン監督は、史書に《大長今》としるされている医女を見つけ出した。即ち、王の主治医となった医女チャングム(長今)とは、『朝鮮王朝実録』のなかの、朝鮮王朝第十一代中宗の事績を記録した『中宗実録』に記載されている医女のなまえを元に、創作された人物である。

イビョンフン監督は、男の名医を描いたドラマ「ホジュン」と対になる作品として、女の名医を描いたドラマ「大長今」を製作するつもりだったのだろう。

ところが、放送が始まってから、チャングムが女官だった時の師匠ハン尚宮があまりに人気を博したため、当初予定されていたハン尚宮の死が、十話も後に引き延ばされてしまった。ドラマ全体としては四話、ふやされた。

ハン尚宮は、師匠として優れているだけでなく、女性としても魅力的だった。女性同士の師弟愛がこれほど美しく理想的に描かれた作品は、私は、今までほとんど見たことが無い。

たとえば、美内すずえの漫画「ガラスの仮面」の月影先生は、北島マヤの才能を最大限に引き出して女優として鍛え上げる、師匠として最高に優れた人だが、女性としては、しょっちゅう、瀕死の状態に陥っては不死鳥のように甦り、顔をけがしているために常に髪の毛で顔半
分を隠して、黒い服ばかり着ていて、まるで魔女のようにおどろおどろしく描かれている。

また、山本鈴美香の漫画「エースをねらえ!」や、山岸涼子の漫画「アラベスク」では、主人公の才能を最大限に引き出してテニス選手として鍛え上げたりバレリーナとして鍛え上げたりするのは、男性の指導者である。彼らは指導者として優れているだけでなく、男性としても魅力的である。しかし、「エースをねらえ!」では、宗方仁コーチは夭折し、主人公岡ひろみと同じ高校生で同じテニス部の藤堂に、彼女を託す。なお、「ガラスの仮面」の月影先生が、顔にけがをしたために女優生命を絶たれて舞台から退いていたように、「エースをねらえ!」の宗方仁もまた、けがによって選手生命を絶たれて引退していた。彼らと違って、「アラベスク」のユーリ=ミロノフは現役のバレリーノであるが、女性の叙情を男性が教えることはできない、と言って、主人公ノンナ=ペトロワを最後の段階で突き放し、彼女ひとりで女性の叙情表現を完成させる。そしてその後で、彼女に結婚を申し込む。

主人公の愛に関して言えば、「ガラスの仮面」では、北島マヤは《紫の薔薇の人》をめぐる三角関係に放り出されたままで、作者が続きを発表せずに宙ぶらりんにしている。

というように、指導者として優れているが女性としての魅力は何とも言い難い月影先生や、指導者として優れていて男性としても魅力のある宗方仁コーチやユーリ=ミロノフ先生はいたが、指導者として優れていて女性としても美しく優雅なハン尚宮のような師匠は、「宮廷女官チャングムの誓い〜大長今〜」で、初めて登場した。なお、ハン尚宮は、月影先生や宗方コーチのようにけがもしていなければ不治の病でもなかったが、かつて、親友のパクミョンイが殺されたために、心に深い傷を負っており、容易に人に心を開かなくなっていた。

イビョンフン監督は、「大長今」を全体としては十話ふやして、チャングムとミンジョンホと中宗の三角関係をもっと丁寧に描きたかったそうだが、チャングム役のイヨンエの体力が限界だったので諦めた、という。韓国のドラマは週二回放送するので、俳優達にとっては過酷なスケジュールになる。もし、週一回の放送だったなら、イビョンフン監督の希望通りに十話分ふやすこともできたのかもしれない。

そして、結果的に、ドラマ「ホジュン」のほうは、文字通り、名医《ホジュン》の物語となったが、ドラマ「大長今」は、名医《大長今》の物語であるというよりも、三分の二は宮廷女官チャングムとハン尚宮との師弟愛の物語で、残り三分の一が医女チャングムと両班ミンジョンホとの恋物語である、といったほうがふさわしい内容になってしまった。

しかし、「ホジュン」も、「宮廷女官チャングムの誓い〜大長今〜」も、医者を主人公とし、志を同じくすること、志を受け継ぐことによって結ばれる師匠と弟子との絆と、肉親・血族の愛情を元にして富や権力を蓄積し相続し繁栄していこうとする、人間としてごくあたりまえの欲求との葛藤がテーマ、だと言える。

「大長今」では、まず、伯母叔母から姪へ受け継ぐというかたちで五代に亘って水剌間の最高尚宮を輩出してきたチェ一族という存在がある。チェ一族は代々の宮廷の有力な両班と結びつき、陰謀の実行役を引き受けて、莫大な富を蓄積してきた。宮中の女官となった女性だけでは、たとえ、彼女一代の富を得てもそれを相続させ蓄積していくことは出来ない。女官は、王の女であるとして、恋愛も結婚も出産も出来ない。彼女達に代わって、その兄弟や伯父叔父達が、血縁を存続させて、次の女官となる女性を再生産していくのである。

それに対して、人の口に入る物を権力を得る道具にしてはならないという信念を持って水剌間の最高尚宮になったチョン尚宮、チョン尚宮の志を受け継ぎ、料理の競い合いに勝って最高尚宮になるハン尚宮、そして、ハン尚宮とともに無実の罪で奴婢にされ、医女となって宮中に戻り、再びチェ一族から志を同じくする人に最高尚宮の座を取り戻すチャングム。この三人の間には血縁関係はない。ただ、チャングムの母は、ハン尚宮の親友だった。チャングムは、母パクミョンイの遺言に従って水剌間の最高尚宮になることをめざして宮中に入ったのだが、医女となって宮中に戻った後、臨時の最高尚宮の座に数日間就いただけで、結果的には、チョン尚宮からハン尚宮へと受け継がれた志は、ミン尚宮が最高尚宮となって更に受け継いでいくことになる。

後に、医女チャングムの医術は、母の愛の心で以て施されていると、言われるようになる。チャングムは母の愛の心で天然痘の患者を看病し、同時に優れた科学精神で感染の拡大を防ぎ、治療法も、完璧ではないが、発見した。

「大長今」では、血のつながった母と娘の愛と、血のつながらない母と娘の愛とが、ほとんど区別無く、美しく、優しく、描かれている。

パクミョンイとソジャングムという、血のつながった母娘の愛、カンドックの妻とソジャングム、チョン尚宮とヨンセン、そして、師弟であるが同時に母娘でもあるともいえるハン尚宮とソジャングムの愛。

少女時代に宮中に入り、ほとんどの人が恋愛も結婚も出産もせず、年老いてからはひとり、宮中を去っていくことを義務付けられた、女官という制度が、女同士の絆を深めざるを得ない状況を作り出したとも言える。そこには、それぞれの仕事の「技を伝える」「志を受け継ぐ」関係もあれば、また、チョン尚宮が甘えん坊のヨンセンを慈しみ育てるような、「保護する」「保護される」関係もある。チョン尚宮は、志はハン尚宮に受け継がせたが、同時に、ヨンセンを訓育することによって初めて母親の心というものを味わい、老年期のわびしさをほとんど解消することができた。

「ホジュン」では、「心医」であることに価値を置く名医ユウィテとホジュンの師弟と、ユウィテの妻オ氏と息子ユドジとが、対立葛藤する。ユウィテは、慶尚道の山陰のユ医院の三代目であった。貧しさゆえに医院の下働きとなった一代目、ユ膏薬を発明した二代目は、学問がなかったが、病人の苦しみを我が苦しみとして心から憐れんだ、「心医」だった。ユウィテは、「心医」であるうえに、学問に優れ、神業ともいえる鍼の術を持つ、稀代の名医だった。だが、彼の医者として師匠としての真価は、彼の死によって初めて十全に発揮された、と言えるのかもしれない。ユウィテは「反胃」という病で死ぬが、遺言によってホジュンに我が身を解剖させ、病の根源を極めよ、と命じた。師のからだを解剖したホジュンは、死よりもこわいものを知り、以後、心医としての道を歩む。

ユウィテの妻オ氏は、夫が家族よりも病人を優先し、冷たいと感じて、長年、ひとりで家計を管理し、財を蓄えてきた。夫を恨んでいるだけでなく、もし彼女がひとりで頑張らなかったら家族みんなが路頭に迷っていたかもしれないのに、誰もわかってくれない、とも思っている。

息子ユドジは、母の孤独感もわかり、父に対しては、どんなに優れた医術の能力を示しても、「心医」でないからと認めてくれないことに怒りを感じている。そのうえ、父が、ホジュンこそ後継ぎにふさわしい「心医」であると認めていることを知ると、ますます怒り、遂に父と息子は袂を分かち、ユドジは、ユ医院を継がず、内医院の医官として出世し、王の主治医、即ち「御医」となることをめざす。

ここでおもしろいのは、あるいはややこしくなるのは、ホジュンもまた、「心医」であるだけでなく、「御医」となることもめざしている点である。それというのも、ホジュンの妻は両班の娘で、ホジュン自身は武官の庶子であるため、本来は身分違いで結婚できないのに、結婚してしまっていた。ふたりの息子ギョムは、賢いけれども、このままでは、科挙を受けることができない。またもしそのことが公になると、ホジュンも妻も死罪になる恐れがあった。しかし、「御医」になれば、両班の身分に変わることができる。だから、ホジュンは、「御医」になることもまた、めざしていた。

ユドジの家は、母オ氏の蓄財の御蔭で常に豊かであり、ホジュンの家は、常に貧しく、妻も母も苦労ばかりしている。ドラマ「ホジュン」を見ていると、「心医」であることは社会的にたいへん意義のあることであり、ユウィテやホジュンはたいへんりっぱであると思う。しかし、その「心医」の家族はたいへんな苦労を強いられ、それに対して自分達の幸福を追求しようとすれば、社会的に有意義な「心医」に反する行為を重ねざるを得なくなり、利己的な人間として生きるしかなくなってくる。ホジュンとユドジの二つの家庭の姿は、そのあたりを実にうまく描いていたと思う。

「宮廷女官チャングムの誓い〜大長今〜」では、女官達は、女として自分の家庭を持つことは放棄しているかわりに、衣食住は保証されている。女官達の多くは、実家が貧しく、いわば、口減らしで、女官にされた人が多い。実家が豪商であるチェ一族や、両班出身のチョン尚宮などのほうが、珍しい。そんな女官達のなかには、できるだけ高い地位を手に入れ、宮中の有力な勢力と結びつき、蓄財にふける人もいる。ちなみに、「大長今」で蓄財にふける女官長を演じた女優は、「ホジュン」でもユウィテの妻を演じており、どちらも実にうまく演じ分けていた。美しさ、上品さ、強欲さ、傲慢さ、冷酷さ、狡猾さなどは共通し、「ホジュン」では、冷たい夫をなじり、息子に愛を注ぎ、更に、夫ユウィテの父親としての愛を息子から奪ったとしてホジュンへの憎しみまで、演じていた。「大長今」の女官長は、血のつながったこどもがいないので、ある身寄りのない貧しいこどもたちを保護していたことが、後からわかる。保護されていたこどもたちのなかから医女になったヨリが、失脚後の女官長のためにかたきを討とうとするのであった。

医女ヨリは、失脚した女官長のかたきを討つためには、手段を選ばず、内医院に勤めていながら、王の側室に流産させることも厭わない。

彼女の姿は、ハン尚宮のかたきをとるために医女となって宮中に戻ったチャングムが陥ったかもしれない影の側面であった。それは、優れた技や知識や、保護してくれた人への恩義の心はあっても、志を持たない場合に陥る姿だったと言える。女官長は、志を持っていなかった。だから、医女ヨリに、それを伝えることもできなかった。

このように、「心医」であるとか、「人の口に入る物を権力を得る道具にしてはならないという信念」であるとか、あるいは「母の愛の心」で患者を治療するなどの、志のある人々が、ドラマ「ホジュン」と「大長今〜宮廷女官チャングムの誓い〜」で主人公になっているが、彼らや彼らと志を同じくする人々は、ことごとく、迫害を受けたり、貧しさを強いられたりしている。その敵役として登場する人々は、個人としての幸福や豊かさを求めるがあまり、手段を選ばず、どんどん利己的に、悪辣になっていく。どちらの立場も、あまりにも苦しく、つらい。

ドラマには、その中間の人々も登場する。「ホジュン」では人のいい小悪党のクイルソやヤンテ、ホジュンと同期で科挙の医科に合格した医官達、「宮廷女官チャングムの誓い〜大長今〜」では、宮中で細く長く生き延びることを信条とするミン尚宮やチャンイや、チャングムの養父母となる、たくましい庶民の代表のようなカンドック夫婦など、主人公達に負けず劣らず視聴者の人気を集めた人物達がいる。志の大切さもわかるが、個人の幸福も守りたい、そのどっちつかずで生きているような人々である。大部分の人は、このどっちつかずの人々こそ等身大の自分だと思って、感情移入する。彼らが、敵役の方にまわらずに、主人公達を助けるのを見て、視聴者は、倫理的な安心感を得ることができるのである。



*これまでに書いた、「宮廷女官チャングムの誓い〜大長今〜」と「ホジュン」のレビュー

大長今(宮廷女官チャングムの誓い)
http://terutell.at.webry.info/200504/article_9.html

チャングム、ミンジョンホ、クミョン、愛の三角関数の定理
http://terutell.at.webry.info/200508/article_1.html

「大長今」とは、医女、文官、王の三角関係を昇華する「作品」?
http://terutell.at.webry.info/200607/article_3.html

大長今〜ミンジョンホの理想と人生〜
http://terutell.at.webry.info/200608/article_2.html

宮廷女官チェ尚宮の闘い
http://terutell.at.webry.info/200612/article_1.html

「ホジュン」ファンからGORDIASへ
http://terutell.at.webry.info/200704/article_2.html



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鍼灸師なので、それっぽい話題を・・・。 先日、ケーブルテレビのチャンネルをあれこれ巡っていたら、鍼を刺すシーンがでてきました。タイトルを表示させると「ホジュン〜宮廷医官... ...続きを見る
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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
昨日、ブログを作成しているときに「ホジュン」と「チャングム」に関して参考にさせていただきました。
ありがとうございます。
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2007/12/08 19:58

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