てるてる日記

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zoom RSS ドナー外来、ドナー健康手帳

<<   作成日時 : 2005/05/04 14:31   >>

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 近年、生体移植のドナーのための「ドナー外来」を設ける病院が出て来たが、「ドナー健康手帳」というものはまだ存在しない。これは、「生体肝移植ドナーに関する調査報告書」(日本肝移植研究会、2005年3月)で初めて提案されたものである。

日本肝移植研究会
http://jlts.umin.ac.jp/

 「生体肝移植ドナーに関する調査報告書」では、ドナー外来ネットワーク・生体肝移植ドナー経験者による相互支援体制の構築と充実をはかるとともに、ドナー登録制度とドナー健康手帳を提案している。
 さらに、ドナーの意思決定に際して、移植専門医以外に、移植に携わらない内科や小児科との連携が図られること、レシピエントの予後が悪いときのドナーへのケア、ドナー退院時の指導改善なども提言している。

 移植医療はレシピエントの救命・健康の回復のために行われるが、生体移植は、そのために、別の健康な人間のからだを、わざわざ傷つけたうえで、その健康の回復を図らねばならない、という矛盾を含んでいる。なぜそんなことが許されるのか、という根本的な倫理的問題があるが、現実に移植医療が実施されている以上、ドナーの健康の回復を図らねばならない。生体移植における「ドナー健康手帳」は、心臓死・脳死移植における臓器提供意思表示カードとともに、移植医療の何たるかを示す最もわかりやすい象徴である。

 「生体肝移植ドナーに関する調査」は、2003年に結成された「生体肝移植ドナー体験者の会」が、生体肝移植に携わる医療専門職でつくる「日本肝移植研究会」にはたらきかけたり、厚生労働省に要望書を出したりして、実現したものである。

生体肝移植ドナー調査に関する要望書(2003年2月4日)
http://www.lifestudies.org/jp/seitai.htm

 このように、「生体肝移植ドナーに関する調査」では、まずドナー体験者自身からの強い要望があって、それに応じて、厚生労働省の研究事業として、日本肝移植研究会が医療専門職と社会学者とによる調査委員会を作っている。調査そのものは医療専門職が行うが、医療の対象となった患者側が主導しているため、研究者だけでなく一般市民にもわかりやすい報告がこころがけられ、広く社会に訴える内容となっている。
 「患者側が主導している」と述べたが、私は、生体移植ドナーとは、自らが病気になったのではなく、ひとりの患者を救うために臓器を提供することによって「患者」になった人々である、と思う。すなわち、医療が作り出した患者である。「生体肝移植ドナーに関する調査」は、医療行為によって、健康な人が患者になるということ、その医療行為が生活・人間関係全般に影響をもたらすことを、詳細に報告している。

 生体肝移植ドナーの問題については、個人による先行研究がある。

清水準一
http://www.j-shimizu.net/
清水準一「日本における生体肝移植のドナーとしての体験とニーズに関する調査」
http://square.umin.ac.jp/%7Ejunichi/lrlt_report.pdf

 清水準一の調査は、「家族社会学研究」第14巻第2号(2003年1月)の、「小特集 『家族愛』の名のもとに:生体肝移植をめぐって」(p.128-161)に概要が報告されている。

「生体肝移植ドナー体験者の会」と「家族社会学研究〜『家族愛』の名のもとに:生体肝移植〜」
http://www5f.biglobe.ne.jp/~terutell/20030620.livingdonor.htm

 「家族社会学研究」の特集のタイトル「『家族愛』の名のもとに」は、なぜ生体移植という医療が許されるのか、という問いに対する一つの答えを含んでいる。

 日本肝移植研究会の「生体肝移植ドナーに関する調査報告書」によると、生体肝移植の件数は、1989年の島根医科大学の最初の事例から2003年12月までで2667例(初回2595例、他は再移植・再々移植)と報告されている。そのうち、アンケート調査に回答があったのは1480件である。

 アンケートの項目には、ドナーの性別・年齢、レシピエントが小児だったか成人だったか(18歳未満と18歳以上とで分けている)、レシピエントとの続柄、レシピエントが現在死亡しているかどうか、ドナーが提供したのは肝臓の左側か右側か(左側のほうが切除部分が小さくて危険度も小さく、小児に提供することが多い)、ドナーの術後の体調の回復状況・術後の経過の順調さ・入院期間・術後に生じた症状・術後の定期的な受診の状況、ドナーの将来の健康への不安・「ドナー外来」に関する要望、術前の生体肝移植に関する説明の概況・説明の評価・移植施設における移植医以外の医療者からの説明の状況・医療者以外の移植経験者との相談・ドナーになるという意思決定までの状況・意思決定にまつわる経験や思い・意思決定における検討項目・印象に残っている言葉・ドナーに対する補償制度への要望・、入院生活に伴う経験・生体肝移植手術に伴う経済的負担・就労や学業に関する状況・退院後の生活での負担感と調整の必要性、家族との関係、レシピエントの状況、レシピエントが亡くなった場合、提供に対する総合的な評価、このアンケート調査の問題点、が挙げられている。

 「アンケート調査の問題点」というのは、アンケートの回収率が61%で、回答出来なかった対象者が3割にのぼることや、アンケートに苦痛を感じる対象者がいたことなど、個人情報保護や倫理的な問題に関するものである。アンケートやインタビューが調査対象者に苦痛を与える場合について、この調査よりも前に、社会学者の武藤香織によって、トリオ・ジャパンのセミナーで報告されている。

第10回トリオ・ジャパン・セミナー「臓器提供-現状と課題(3) 生体肝移植の経験から」(2002年11月17日)
http://square.umin.ac.jp/trio/seminar/seminar10.html

 「生体肝移植ドナーに関する調査」では、選択式や「はい・いいえ」式の回答欄だけでなく、自由記述式の回答欄も多数設けられている。その結果、統計的なデータによって全体の傾向が浮かび上がるとともに、一つ一つの移植事例のなまなましい貴重な証言が寄せられている。
 多数の項目のなかから、ドナーの「意思決定にまつわる経験や思い」についての回答で、家族と話すことへの「ためらい」と、「意思決定における検討項目」の部分を抜き出してみる。というのも、まさに「家族愛」の実態がここにあると思うからである。

6)意思決定にまつわる経験や思い

(前略)

 また成人症例では、ドナーになるにあたって自分の血縁者(親・きょうだい)に話すことへのためらいが「強くあった」「あった」とする者が約13%、配偶者・パートナーなどに対しては約11%と小児症例に比べて多かった。
 こうした近親者への「ためらい」の理由などについて自由回答では、

・生体肝移植のことをうまく説明するのが困難である。
・自分自身もパニック状態で、自分の考えをうまく伝えられない
・(高齢の)親に心配をかけたくない
・話をすると(レシピエント以外の)子どもが不安がると思った
・(配偶者の移植で)夫婦ともに死ぬ可能性があり、その場合子どもを誰に託せば良いかと考えたが、誰にも話せなかった。

 などが記載されていた。
 特に配偶者間やそれぞれが独立した家庭を有しているきょうだい間で移植を行う場合には、ドナーが家族・親族内での支援者を得にくいことが示唆され、意思決定の前後でこの点を理解し、支援してゆく必要があると考えられた。


7)意思決定における検討項目
 さらにドナーになるかどうかを検討する時に重視した内容について、その程度を尋ねたところ、手術の目的に強くかかわる「レシピエントの救命や健康回復の見込み」、「医学的によい肝臓を提供できるか」といった項目が極めて重視されていたが、レシピエント以外にも子どもを有している者が多いと考えられる小児症例のドナーでは、「自分が入院している間の子どもの世話」の項目、成人症例では「手術費用の家計への影響」の項目が、ドナーの手術の死亡率や合併症といった項目と同等またはそれ以上に重視されている点は生体肝移植という医療とどのドナーのおかれている状況の特徴を良く示しているものと考えられる。(表5-4-4)
 一方で、「拒否した場合の家族関係への影響」や「周囲からの期待や要請」といった項目は全体的にそれほど重視されていなかったが、自由回答の記載には、

・これから先、親、兄弟、など親戚関係と自分の人生の中でずっとかかわっていく限り、手術をしないという選択はありえない。そのような現実を背負って生きていく方が、体や数ヶ月の生活を犠牲にすることより、よっぽどつらいだろうと思いました

といった意見が述べられており、重大な問題ととらえている者もいた。


 手術後の家族との関係については、良い面も悪い面も報告されている。関係が悪化するのは、レシピエントが死亡した場合が多いが、レシピエントが生存している場合にもある。

(6)家族との関係

(前略)

・娘を私が助けたことにより、父親らしくなれたと思う
・子どもたちがとても優しくなりました
・夫婦の絆は強くなり、子どもたちなりに認め、自分も提供したかったと優しい気持ちを素直に話してくれました
・もともと仲が悪い訳ではないが、年寄りの間で、ほめられているようだ
・患者であった妻の親族からの信頼度が増して、より一歩親密な関係が築かれた

(中略)

・今でも「手術さえしなければ」といつも言われる。ドナーの負担は少しも考えてくれない
・お金がすごくかかってしまったので、それを子ども達に残してやればよかったという意見が出て、ドナーになってよかったのかどうか迷ってしまいました
・昏睡状態になってからの手術だったので、親戚の中には、どうして手術をして苦しめたのだと言う者もいた。良くなる可能性も含んだ手術であったが、すぐに亡くなったので、それぞれの思いが交錯して今までの人間関係を複雑にした
・レシピエント(夫)は亡くなり、夫側からは嫁でもなければ孫でもない! とまで言われ、縁が切れました

(中略)

・手術費用などがたくさんかかったので義母にお金のことでグズグズ言われてケンカになり絶縁した
・レシピエント(息子)が元気にはなったけれど、難病だから完治しないという事が余計に実感されているみたいです。ドナーに対しては、早く働くようにすすめられるのが苦痛です
・姑に子どもをみてもらっていたので、とても気を使った
・舅に子どもを預けていたが、入院中、体調も悪いのに電話で文句を言われた。実家に帰すと言われ、離婚も考えた

(中略)

・皆が私に対して腫れ物に触れるように接するようになった。その度に疎外感を感じるようになり、孤立化していくような気になった
・両親の世話がおろそかになり、両親に不安を与え、今二人の状態が良くない事に責任を感じている
・経済的な支援をしてもらった事で、心を痛めることがある

 こうしてみると、小児症例の場合でドナーとレシピエントが核家族内にとどまる場合には関係性に及ぼす悪化の影響は少ないが、成人症例の場合や特にドナーとレシピエントがそれぞれ家族をもっている場合など、姻族を含めた拡大関係のなかでは、様々な関係性の変化がありうる可能性に留意しなければならない。特にレシピエントが配偶者の場合でレシピエントが死亡している場合には姻族との関係が断絶する傾向にあるが、レシピエントが生存している場合には、姻族との関係が継続するため、移植手術にかかって生じた問題が、移植後も長く尾を引く可能性が示唆された。

(後略)



 レシピエントの予後が悪かったり亡くなった場合は、家族関係だけでなく、移植医療に対する不満や不信感が、レシピエントの状態悪化や死亡と直接関連づけられなくとも、そのことをきっかけとしてクローズアップされるようである。


(8)レシピエントが亡くなった場合

(前略)

 まず、ドナーは患者ではないとされ、レシピエントの介護労働力として期待されているために体力面が厳しかったという指摘が多かった。

(中略)

1)不本意な退院

・ドナーは病気ではないというので、手術後は38度以上も熱があるなかでの退院でした。帰ってからも自室で一人、寝ているしかなく、病院からは何の連絡もなかった。私は自分のことより、早くレシピエントの看護に行きたいとあせる毎日でした。
・自分の体も大変だったので、レシピエントは看護師さんにまかせられる様にしてほしかった。1週間位ではきつかった。
・1週間で別の病院へ行かされた。毎日別病院からレシピエントの所に通った。不便だと思った

(後略)



 私は、移植医療に携わる専門職は、本来は生体移植というものはあってはならぬものだとの負い目があるために、ドナーが患者であることを忘れたがっているのではないか、と気を回してしまう。

 前出のトリオ・ジャパン・セミナー「臓器提供-現状と課題(3) 生体肝移植の経験から」で講演している河野太郎衆議院議員は、生体肝移植ドナーであるが、生体移植よりも脳死移植をふやすことが先決と考え、本人の事前の書面による同意がなくとも、脳死後に家族が同意するだけで臓器提供できるという臓器移植法改正案を作っている。

臓器移植法改正に関する河野私案について
http://www.taro.org/activities/opinion/organ.html

 一方、「生体肝移植ドナー体験者の会」は、生体移植一般のドナーの保護を規定する項目を臓器移植法に付加することを要望している。

「生体肝移植ドナー体験者の会」から自民党への要望書(2004年02月10日)
http://www5f.biglobe.ne.jp/~terutell/20040210youbousho.htm

 「生体肝移植ドナーに関する調査報告書」からは、生体移植のドナーは「患者」であることを忘れるな、という声が聞こえてくる。

 だからといって、脳死移植ならばドナーは「死者」であるからよいなどと言うこともできない。生体肝移植ドナーのひとり、鈴木清子氏は、やはり前出のトリオ・ジャパンのセミナーで、「生きる側の人たちの視点だけでものごとを語らないでもらいたい」と、レシピエントであるこどもが亡くなって、「大切なものをなくしながら生き続けなければいけない」立場から、述べている。



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生体肝移植を扱ったテレビドラマ
きょう、2005年1月22日(土曜日)の夜、9時から、生体肝移植を扱ったテレビドラマが放送されます。 ...続きを見る
てるてる日記@WebryBlog
2005/05/04 16:12
「ドナー外来、ドナー健康手帳」その後
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2007/02/20 18:22

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
生体肝移植は法律でぜひとも禁止して欲しい。
私の場合には移植コーディネータの介在もなく、しいて言えばレシピエントの兄自信がコーディネータであった。
移植の承諾には脅迫とお金が絡んでおり、どこかの国の人身売買と似たようなものだと思ってます。
手術の方法等の具体的な説明は此方から拒否したのですが(考えるだけで頭が痛かった)、提供後のリスクについては此方から聞いても何も教えてもらえませんでした。
ただ一言、ほていさんになりますよ! だけ。
胆嚢の切除などは、手術の前日のこと。
医師:胆嚢は切除しますからね!
私:先生、胆嚢は盲腸と同じでいらないんですか?
医師:ま〜、生きてはいけるわな。

日本の医療システムなんて、実際体験してみれば、すごくいいかげん。
とても先進国とは思えなくなってしまった。

こういったドナーの苦しみを見ようともしないで、日々、生体肝移植の普及活動にまい進している医者をみると、吐き気すら覚えます。
絶対に、システム的な見直しが必要です。
今後の人々の為に、敢えて提言しておきます。
肝心かなめのおばかさん
2005/05/16 03:12
 てるてるさん、調査報告書のことを取り上げてくださって、ありがとうございます。
 本文で、私のサイト(http://www.j-shimizu.net/)にある報告書へのリンクをしてくださっていますが、これは暫定的なもので、現在は日本肝移植研究会のトップページからダウンロードできるようになりましたので、可能であれば、リンク先を変更していただければと思います。(私のサイトのファイルは今後削除する可能性があります。)

 調査の経緯のご説明については、若干、私の認識と違います。
 こちらに記述されているほど直接的な反応として実施されたというものではなく、私の細々とした研究やドナーさん達の地道な活動などが偶然つながったという印象が今もしています。
 その偶然を、移植医も私達研究者も協力してくださったドナーさん達も大切にして進めていった結果がこの報告書であると考えています。
 
清水 準一
2005/05/16 17:42
清水さん、お知らせありがとうございます。
肝移植研究会のサイトでpdfファイルにアクセスすると、かなり時間がかかって真っ白な画面が出てくるだけで、何も見えないので、しばらく、このままにしておきます。
調査の経緯について、私は患者さんたちの積極的な活動を強調したようなかたちになったと思っていますが、清水さんや武藤さんのような研究者や、移植医の方たちも、患者さんも、患者さんの家族も、皆、真剣に問題に取り組まれた結果ですね。「偶然」ということの重み、おもしろさ、ということは、はずせないと思います。本文のほうはそのままにしておきますが、コメント欄で、清水さんのコメントを「当事者」からの重要な証言として置かせていただきたいと思います。
terutell
2005/05/17 08:24
>肝心かなめのおばかさん

なまなましい体験談をお寄せいただき、ありがとうございます。
きょうもまた、福岡大学で生体肝移植が行われたというニュースがあります。
西日本新聞に載っているようです。
「福大で初の生体肝移植」(西日本新聞) - 5月17日2時12分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050517-00000023-nnp-kyu

移植手術の「成功」とは何なのか、単に医療行為としての手術そのものが成功するというだけでは片付かない……ですね。
terutell
2005/05/17 08:32
>清水さん

とりあえず、本文を直してみました。
日本肝移植研究会と、清水さんの新しいサイトと、両方にリンクをはりました。
terutell
2005/05/17 21:29
色々ご配慮いただき、すみません。
清水 準一
2005/05/19 23:47

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